生体吸収材料としてのキチン

生体吸収性材料とは、生体に入れる前は比較的良好な物性を保っているが、生体に入った後は徐々に分解吸収され、最終的に完全に消失する材料をいいます。

すでに医療分野で実用化されている材料の種類は多くありません。例としては、縫合糸として古くから使用されている羊の腸を再生した、モノフィラメントであるカットグット。同じく縫合糸としてポリグリコール酸、ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体。他にはポリジオキサン、コラーゲン(ゼラチン)があります。これらの吸収性材料が、生体分解される機構には酵素による分解と加水分解による二つの種類があります。

キトサン、キチンの生分解性は生体系におけるキトサナーゼ、キチナーゼ等の酵素分解がありますが、生体材料として用いたときの吸収は、直接的には異物巨細胞などの貪食細胞の出現によるものです。これらの細胞は通常リゾチームを豊富に含みます。キチンはこのリゾチームにより分解され、分子中にグルコキシド基が切れて行きます。単糖になれば通常の代謝経路に従って代謝されることになります。

キチンは通常生体内に入れると、異物反応はあるものの炎症反応は低いものであります。またキチンの成形体は高い結晶性と配向性のために、生体吸収は早くはありませんが、確実に吸収され、その速度も比較的安定しています。よってキチンは良好な生体親和性を保ちながら、安定した吸収が行われる材料といえます。